新規事業やスタートアップで新しいプロダクトをリリースし、一定のユーザーを獲得した段階で、「このプロダクトはPMF(プロダクト・マーケット・フィット)を達成しているのか?」と考えることが重要です。しかしPMFの定義やその考え方はさまざまであり、計測も難しいとされています。PMFに関する考察や事例については、多くのスタートアップ関係者が素晴らしい事例などを紹介しています。今回は、スタートアップ「Superhuman」がプロダクト・マーケット・フィット(PMF)を達成し、多くのユーザーを獲得していく過程で、どのようにしてプロダクトがユーザーに支持されているかを測定したメトリクスをご紹介します。Superhumanは、電子メール処理の生産性を劇的に向上させるプロダクトであり、2024年7月時点で$800M以上のバリュエーションがついている成長中のスタートアップです。そのCEOであるRahul氏が、インタビューでどのようにPMFを達成したのかを詳しく語っています。%3Ciframe%20width%3D%221280%22%20height%3D%22720%22%20src%3D%22https%3A%2F%2Fwww.youtube.com%2Fembed%2F5d8tOtdcN2Q%22%20frameborder%3D%220%22%20allow%3D%22accelerometer%3B%20autoplay%3B%20encrypted-media%3B%20gyroscope%3B%20picture-in-picture%22%20allowfullscreen%3E%3C%2Fiframe%3Eこのメトリクスを活用するためにSuperhumanはアンケートを活用しながら、プロダクトがユーザーにどれくらい支持されているかを分析しながら、PMFを達成しています。文末には、このメトリクスを作成するためのアンケートのテンプレートもご用意していますので、ぜひご活用ください。それでは、Superhumanがどのようにプロダクトを改善していったのか紹介していきますまずは4問のアンケートを作成し既存ユーザーに回答を依頼するSuperhumanはユーザーに対して以下のように4問のアンケートを作成してメールでユーザーに回答を依頼しました。アンケート内容設問1: もしSuperhumanを使えなくなったらどう思いますか?? (A) 非常に残念 (B) 少し残念 (C) 残念ではない設問2: どのような人がSuperhumanから最も恩恵を受けると思いますか?設問3: Superhumanを使用することで得られる主な利点は何ですか?設問4: Superhumanをさらに良くするために、どのような改善が必要だと思いますか?アンケートの回答を集計し、設問1の選択肢Aの非常に残念(Very Disappointed)と回答した人の割合を計測します。Superhumanの22%のユーザーがもしプロダクトが無くなったら「非常に残念」と回答しています。 (出所: First Round Review )Superhumanによるとこの回答者の割合が40%未満のプロダクトは成長に苦しんでおり、一方この割合が40%を超えているプロダクトはユーザーに刺さり、大きく成長する事ができるとしています。つまりPMFの前兆を掴んでいる可能性があります。Superhumanはこのメトリクスを自社でPMFを定義する指標としても有効であり、一般的に使われているNPS(Net Promoter Score)よりもPMFの予測に適していると語っています。PMFを発見するエンジンとして活用しており、多くのスタートアップ企業でも簡単に利用でき、このPMFスコアは次の2点で役に立ちます。1つ目は、この指標を計測していく事で自分たちのプロダクトがどれくらいPMFに近いか、もしくは、かけ離れているのか認識し、PMFに向けて進んでいるかを確認することができます。2つ目は、この割合を改善していく事で、PFMをどのように達成するかが明確になる事です。プロダクトを変更する前に、マーケットを変更してみる初期の頃Superhumanがこのアンケートをとった所、「(A) 非常に残念」と答えた人の割合は20%程度でした。よりユーザーに気に入って貰い使ってもらうためには、プロダクトの追加機能開発や改善が必要です。しかし、これには大きな工数が発生し時間がかかってしまいます。一方、ターゲットとするセグメントやマーケットを変更する場合は容易に実行でき、プロダクトを大きく改善する必要がありません。そこで、アンケートの結果を業界や役職のセグメントで分析してみる事にしました。 (出所: First Round Review )セグメント毎を切り分析する事で、それぞれのグループで「(A) 非常に残念」と答えた人の割合は異なり、22%だったこの割合は特定のセグメントでは32%まで上昇しました。そこでSuperHumanはこの割合が多いセグメントにリソースを集中する事にしました。 (出所: First Round Review ) (出所: First Round Review )単にユーザーのフィードバックを基に改善しても成功しないスタートアップのプロダクト開発においては、多くのユーザーフィードバックを得ることができますが、どの意見を反映すべきかは非常に悩ましい問題です。例えば、アンケートで「(C) 残念ではない」と答えたユーザーのフィードバックを反映し、すべての意見を改善に取り入れたとしても、その結果としてプロダクトが無くなった際に「(A) 非常に残念」と感じてもらえるレベルには達しません。つまり、エンゲージメントが低いユーザーのためにプロダクトを改善しても、大きな成果にはつながりにくいのです。もう一つの注意点として、「(B) 少し残念」と答えたユーザーの意見を反映してプロダクトを改善すると、多機能化が進み一貫性が損なわれる可能性があります。その結果、プロダクトが複雑化し、分かりにくくなることに注意が必要です。では、「(A) 非常に残念」と答えたユーザーのフィードバックを反映すべきなのでしょうか? しかし、単に彼らの意見を取り入れても、すでにプロダクトを気に入っているため、追加的な満足感を得られるとは限りません。そのため、「(A) 非常に残念」と答えたユーザーの自由回答を分析し、彼らが最も価値を感じている部分を理解することが重要です。初期のSuperhumanは、このような分析から「スピード」、「ショートカット」、「時間短縮」といった改善のキーワードを見出しました。そして、それに基づいて「(B) 少し残念」と答えたユーザー向けに改善を行っていきました。 (出所: First Round Review )「(B) 少し残念と回答した」ユーザーを2つのグループに分け分析「(B) 少し残念」と回答したユーザーを、どの機能に価値を感じているかで2つのグループに分類しました。具体的には、Superhumanに満足しているユーザーが最も価値を感じている「スピード」をメインの価値と考えるかどうかでフィルタリングしました。 グループ1: 「 (B) 少し残念」ユーザーで最も感じる価値が「スピード」 グループ2: 「 (B) 少し残念」ユーザーで最も感じる価値が「スピード」ではない。 (出所: First Round Review )Superhumanは、フィードバックの活用方法を検討し、グループ2のユーザーの意見は無視し、グループ1のユーザーの意見を積極的に取り入れて改善する方針を取りました。これは、プロダクトの主な価値が「スピード」でないユーザーのフィードバックを反映しても、彼らがプロダクトを気に入る可能性が低いためです。グループ1は、「(A) 非常に残念」と答えたユーザーと同じく「スピード」に価値を感じています。そのため、Superhumanはこのグループにフォーカスすることにしました。Superhumanはこのグループのこの部分にリソースを分配し、プロダクト改善する事で、「(A) 非常に残念」ユーザーの割合を増やす事に成功しています。 (出所: First Round Review )どのユーザーにどれくらいリソースを使うべきか?このようにアンケートやユーザーインタビューでは様々な意見を収集する事ができます。しかし、どのグループのユーザーの意見を優先的に対応していくかは非常に重要です。「(A) 非常に残念」のユーザーの意見は大変重要ですが、これに過度に最適化してしまうと、「(A) 非常に残念」と答えてくれるユーザーの割合を更に増やすことはできません。また同様に「(B) 少し残念」のユーザーの意見だけを聞いていてもプロダクトを尖ったベストなものにする事ができずに、競合がもっと尖ったいいプロダクトを出してきたらそれに取って代わられてしまいます。ではどのようにリソースを配分すればいいのでしょうか?Superhumanは50%のリソースを「(A) 非常に残念」のユーザー使い、このユーザーが最も価値を感じている「スピード」、「ショートカット」などに集中しました。残りの50%を「(B) 少し残念」ユーザーのグループ1のユーザーに使い、このグループがプロダクトを気に入って貰うための障壁になっているものに集中しました。更にこのグループ1のアンケートを分析してみると、改善点として「モバイルアプリ」や、他のツールとの「連携」、「検索」機能を挙げている事がわかり、これらをすべて機能に取り入れました。 (出所: First Round Review )このように、プロダクトを大変気に入っている「(A)非常に残念」ユーザー向けにしっかりプロダクトを磨き込み、一方で「(B)やや残念」ユーザーの要望に対応する事で、「(A)非常に残念」ユーザーに転換していく事ができます。このように四半期毎にアンケートを取りながら、ユーザーの意見に注意深く対応していく事で、PMFスコア(「非常に残念」ユーザーの割合)は33%と上昇し、60%近くまで情報していきました。 (出所: First Round Review )自社でPMFスコアを計測してみるSuperhumanのようにPMFスコアを定期的に計測し、プロダクトを磨くことで、PMFを達成する事ができるかもしれません。すぐに利用できるSuperhumanと同じアンケートのテンプレートを提供しています。こちらを活用し、四半期毎に計測しプロダクトマーケットフィットを目指しましょう。